山野浅里レビュー【No.5】ayaradio727「Illusion」

REVIEW

幸運にも音楽ライターの山野浅里さんがayaradio727の音楽を取り上げてくださることになりました。

§Illusion

イリュージョン。幻影もしくは錯覚。自身も「内側にある矛盾した感情を曲として形に」するのは難しかったと語ったこの歌詞につけるタイトルとしての「Illusion」。それはやっと絞り出すようにして生まれたものではないかと感じる。彼ら、ではなくて私たち。ところがその私たちとは、私とは。私の揺らぎを言葉にするのはとても困難が伴うだろう。私があるからこそイメージが生まれる、私がゆらいでいるとそこにあるイメージは私のものなのか他者のものなのかは判別し難い。それを「Illusion」と言えることの重さが全編を覆う。自らのイメージに疑義が生じるような事態で人は創り続けることが出来るのか。とても困難な課題だ。

楽曲はマイナーコードを基調にしながら転調による展開をはさみつつゆっくりと進行していく。初期4作品で試された音楽表現がここに結実している。後半は電子音を交えながら浮遊感溢れるバックトラックが印象的だが、全編通じて前作で試されたギターのストロークがここでも活かされている。それらに支えられた切なる希求が慎重に選ばれた言葉によって歌になり放たれていく。時を経れば経るほどその重みは増すように感じる。一聴した時の印象とその後の印象では色彩の憂いが変化していく。

MVは距離感と行き場を失いかけたさまざまな色彩があらわれては消える。それらは灯りと木漏れ日が交叉する空間を行き来する。これまででもっとも抽象的な映像作品に仕上がっており、その分、メッセージがすべて楽曲に刻まれていることが際立つ。それらが楽想のメロウさとの対比もあいまって楽曲の内部で昇華されていく様はとても印象的だ。

この曲で問われているポイントは自我の揺らぎだ。そのように筆者は受け止めた。この作品の中でささやかに示される救いの言葉に吸い寄せられる構成は見事だがその一方、ここで問われた自我にどう答えるかという点は課題を残したままだ。初期段階を過ぎて、ここに置かれたこの楽曲のメッセージはとても深く心に沈み込む。だからこそこのタイトルは一層重みが増す。

Y.ASARI

この曲のMVはこちらです↓

ayaradio727
ayaradio727

この曲だけは私の曲にしては珍しく日本語の訳を公開していないので「Illusion」に込めた意味もベールに包んでいるつもりだったのですが、そこに自我のゆらぎを見出して楽曲そのものからのインスピレーションをもとにこのようにレビューして下さったこと、大変嬉しくあり、またそのレビューからも再び創作の刺激を受けています。

山野浅里さんのNoteはこちらです↓

ASARI|note
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