山野浅里レビュー【No.12】ayaradio727「わたしの小さな庭より静かなインストルメンタル3曲」

REVIEW

幸運にも音楽ライターの山野浅里さんがayaradio727の音楽を取り上げてくださることになりました。

§わたしの小さな庭より静かなインストルメンタル3曲

My Little Garden / raindrops / yuzugardenという3曲のアンビエントインストトラックをつないだ本作は2021年8月に発表されているが、実際には2020年6月と11月に各々独立した曲として発表された楽曲をまとめたものである。曲順は当初の発表の順に沿っており、6月のトラックはアジサイ、11月のトラックは柚子がタイトルにも添えられている。楽曲は動画のBGMである事を目的として制作されているがその詳細はYouTubeチャンネルで確認してほしい。3曲は音色的には近いところである一方、楽曲は各々が明確に異なるアプローチを持っている。それでもこれらを連作ととらえてもとても有機的に機能していると感じる。

My Little Gardenはもっともシンプルな作りで分散和音を奏でるハープの音色は随所にバッハ的な端正さを思わせつつ静かに終える。続くraindropsは、メロディーが明確に示されておりコード進行も直近の開かれた世界を連想させる王道のパターンを配している。その点では本3連作中もっともアンビエント色というよりも楽曲としてのカラーの強い作品である。中盤は静かなコーラスも配置されており透明感あふれるポップなアプローチが印象的だ。yuzugardenは前2曲から少し間を置いて発表されているがエレピを軸とした静かな楽想の中で演奏に濃淡を持たせる複雑なアプローチを保っている。この曲はある種のインプロビゼーション的な側面があるのだろうか、筆者にはそう感じた。中盤以降の粒の細かいアプローチ等、展開密度の濃さは本連作中もっとも際立っている。様々な表情を短い楽曲の中に落とし込んだ素晴らしいアプローチだと思う。

ayaradio作品におけるインスト曲は、Always With Youが最初の作品だ。一方、彼女自身の作品としてはそこからさらに1年弱遡る事になるが本作の方がAlways With Youよりも先に発表されている。その上で本作は純然たる音が軸に展開している一方、Always With Youでは言葉が牽引する即面がある。筆者はこの連作が直接的にAlways With Youに向かうきっかけになったとは受け止めていない。本作の向かう先は映像作品と共にあるという前提の中にあると感じているためだ。この後、次第に映像そのものの表現が深化していくことも考えると、このタイミングで映像を前提とした本連作を発表した意味は大きいと思う。そのために彼女自身の表現への向き合い方についてのある種の宣言のような気概を感じた。

筆者がこの3曲を連作ととらえたのは楽典的なアプローチや、音色の統一感ではなく、その後の作品における音楽と映像の密接さの萌芽を本作品群に見るためだ。その点では制作年よりも連作としてあらためて発表された2021年時点の方が彼女のクリエイターとしての立ち位置が明確になっていると感じる。

Y.ASARI

この曲の動画はこちらです↓

ayaradio727
ayaradio727

このインスト3曲もayaradio727作品としてレビューの対象に選んでくださったことに敬意を表したいです。これらの曲を作る時にも曲を作るための目的があり、それぞれに表現方法を考えての制作だったとの見方で聴いてもらえるのは、創った本人としても新鮮でした。これらの作品が後の「Her Little Garden」制作へとつながっていくのだなぁと、なるほどと思いました。インスト作品もまた作ってみたいです。

山野浅里さんのNoteはこちらです↓

ASARI|note
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