幸運にも音楽ライターの山野浅里さんがayaradio727の音楽を取り上げてくださることになりました。
§帰京
はじめてのラップと紹介されているがこれまでのポエトリーリーディングに近いアプローチでのMCはI’m not thereをはじめ数曲で披露されている。それらを萌芽ととらえるなら、本作はごく自然なヒップホップへの接近ではないかと思う。リズムへのアプローチもGood Music!!!のMVで垣間見たダンスからはごく自然なつながりであろう。その上で本作をプロデュースしたはじまりのライトフライの貢献によるところが大きいと思われるフローとライムの仕上がりは彼女のMCアプローチを一層深化させたと感じる。
リリックはハイコンテクストに満ちていることを予感させる。そのことは本作で言葉を共に紡いだプロデューサー、はじまりのライトフライ本人のオリジナル作の作風からも、彼女自身のこれまでの表現からも容易に想像できる。あらかじめその前提にたって楽曲を楽しむことになった筆者にとって幾重にも解釈のつくこのリリックのアプローチはとても興味深い。
シンプルなトラックはオールドスクール寄りのヒップホップマナーに違和感なく馴染む。どちらかといえば曲の長さは短い方だろう。しかし密度の濃さが残す印象はこれまでの作品と変わらない。また、MCパートとメロディーパートで声を使い分けているところは非常に巧みだ。これは彼女の持つある種の演技力の表れでもありポテンシャルの高さを予感させる。
MVは終始一貫して静的な構成を守っている。ビルの窓から見下ろす大通り、リリックの最後にMVはわずかに動的な仕掛けを施している。そこで彼女は「東京の空にも星はある」と歌う。この部分のコンテクスト性を排除して言葉通り受け止めるなら(星はないと思われ、思いがちかもしれないが)星はある、と読めるだろう。決して特殊な言い回しではない。変わったところは何もない。しかし星はないと思われた光景を多く切り取ってきた彼女のこの言葉はMVの仕掛けと共に大きな救いを感じる。
この曲のMVはこちらです↓

「はじめてのラップ」とタイトルに入れているが、たしかに「ラップのようなもの」はこれまでの曲にも取り入れたことがあったので「はじめての意識的なラップ」が正しいのだと思う。初めて自身の作詞作曲ではなくはじまりのライトフライさんによるプロデュース作品ということで、自分で書いていないリリックで表現する挑戦となった。言葉を音として遊ぶ感覚を新たに身につけられたらいいなぁと思うようになった、明確にこれまでとは自分の意識が変化した作品でもある。
山野浅里さんのNoteはこちらです↓
